碧の約束2





クラスごとに乗り込んだバスの中。

 皆が騒いでいる中、一人ぼんやりと外を見ている千尋に、隣の席に座っている仲良しの女の子が声をかけた。

「千尋〜。千尋も一緒に話そうよっ!今、3組の宇都宮君の情報交換やってんだよ〜」

 千尋は、一瞬友達を見ると、すぐに窓の外に視線を戻した。

「興味ないよ」

 3組の宇都宮君というのは、テニス部の好青年で、女子の人気が高い。その上フリーなので、こうして一見仲良く、心の底ではライバル心を燃やしながらの話のネタとなるのだ。

 しかし、千尋は彼に興味はないので、正直に言う。

 今はハクのことを考えているのに。

 邪魔しないで欲しい、とさえ、思ってしまう。

 ハクと比べるのは酷かもしれないけれど。

 ぷい、とそっぽを向いた千尋に、友人は意地の悪い微笑を浮かべて、言った。

「あたし知ってるんだー。千尋が、時々物思いに耽ってるの。アレは恋してる顔だね〜」

 胸の前で腕を組んで、うんうんと頷いている。

 千尋は、仕方なく友人を見返した。

「だから、勝手に決めないでよ」

 迷惑そうに言う千尋にはお構いなしに、友人等は、宇都宮君の話から、千尋の恋話に興味を移したらしい。

 皆、一様に頷いている。

 ったく、もうっ!

 こうなったら、他に興味が移るまで、絶対に引かないのだ、この友人は。

「でもさぁ、相手の見当がつかないんだなー。普通、視線を追ってればわかるんだけど、千尋はわかんないんだよねぇ」

 その一言には、発言者以外、全員が反応した。

 自分の好きな人が、バレかねないからだ。

 それを期に、千尋は言う。

「そんな人いないんだから、当たり前でしょ」

 言いながら、心に浮かんだのは。

 ハク。

 けれど、千尋は、頭の中で手を振って、その考えを打ち消した。

 ハクへの気持ちは、もっと純粋なもののように感じていたから。

 恋だとか、愛だとか、そういう風に言ってしまいたくなかったから。

 我が身の危機を感じた、数人のおかげもあって、その話題は、そこで打ち切りになった。




 合宿をする少年の家に着いて。

 施設のオジサンから、話を聞いて。

 部屋へ荷物を置いて。

 お昼御飯のお弁当を食べて。

 片づけをして。

 着替えをして。

 川へ着いた。

 一人乗り用のカヌーが、沢山並んでいる。

 さっきとは別のオジサンが、操作の説明をしている。

 そして・・・オレンジ色のライフジャケット。

 千尋は、叔父さんの話なんか、ほとんど聞いていなかった。

 目の前に流れる川。

 涼しげな音。

 透き通った、綺麗な水。

 今朝の夢といい、今目の前にある川といい・・・ハクを思い出す要素だらけだ。

 こんな日は、他のことに集中できない。

 薄れゆく記憶を、必死で手繰り寄せて、ハクのことを考える。

 どうして、こんなに気になるのか。

 千尋にはわからない。

 きっと会えるって、言ったのに。

 その日は、まだ来ていない。

 本当に、そんな日が来るのだろうか?

 川の守り神なんて・・・本当にいるのだろうか?いたのだろうか?

 あれは夢?それとも現実?

 紫色の髪留めがあっても、月日が経つにつれて、信じる力が弱くなる。

 それでも失いたくないから、だから、ハクのことを気にして、気になっている。

 彼のことを想っている間は、あの気持ちを思い出して実感できるから。

「ちひろー!川っ!入ろうよっ!」

 いつの間にか、話は終わっていて、オレンジ色の大群が川へ押し寄せている。

 カヌーに乗るのは順番で、他の者は、適当に泳ぐようだ。

「今行くー!」

 千尋は、準備運動もそこそこに、川へ入った。

 ひんやり。

 水が脚に触れる。

 それだけで。

 切なくなる。

 泣きたくなる気持ちを振り払うかのように、千尋はそのまま深い方へと進んだ。

 冷たい水が、火照った身体を冷やす。

「気持ち良い〜〜!」

と、友人達は、大はしゃぎだ。

 千尋も、その中に加わる。

 川へ来ても。

 やっぱりハクはいなかった。

 ハクには会えなかった。

 ガッカリする自分を忘れたくて、千尋は友人達とキャーキャー言って、水を掛け合う。

 全てを忘れてしまえたら、楽になれるのだろうか?

 動きすぎたのか、はたまた何かの偶然か。

 千尋の紫色の髪留めが、するりと抜け落ちた。

 髪が広がって、千尋はすぐに、そのことに気付く。

 川の中へ落ちた髪留めは、ゆらゆらと、流されている。

 なんとか見つけ出して、千尋は髪留めを追って友人達の輪を離れた。

 追いかけて。

 手を伸ばしたとき。

 脚に、痛みが走った。








戻る 前へ 次へ




広告 [PR]冷え対策  再就職支援 わけあり商品 無料 チャットレディ ブログ blog