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碧の約束3 髪留めを追いかけて、人の少ないところまで来て、千尋は激痛に襲われた。 ろくに準備運動もせずに水に入ったのが悪かったのか。 脚がつった・・・。 近くの人に助けを求める間もなく、千尋は水に包まれた。 やだ・・・こんな所で死にたくない・・・。 そう思っても、脚は動かない。 息は、苦しい。 千尋は、思わず空気を求めて口を開け、水を飲んだ。 もう、ダメ・・・。 纏わりつく、重い水。 意識を手放してしまいそうになった。 ハク・・・。 大切な人を思い出す。 もう、会えないよ・・・。 もう一度だけ・・・。 約束したのに・・・。 その時。 ふわりと、水が軽くなった。 苦しくて。 千尋は、差し伸べられた腕に、しがみついた。 あんなに動いてくれなかった体が軽くなる。 脚の痛みも、感じない。 水の中を、スイスイと進む。 あぁ。 千尋は、思い出した。 この感じは。 ハクだ。 眠っていた記憶が、いっせいによみがえる。 水から上がると、千尋は相手の顔もよく見ずに、助けてくれた人に抱きついた。 見なくても、ハクだと確信していた。 「ハクッ!会いたかったっ!」 その人は・・・ハクは、少し驚いたようだったけれど、そっと、千尋を抱きしめてくれた。 「私も、会いたかった。久しぶりだね、千尋」 4年ぶりに聴く、ハクの声。 少し、低くなっただろうか。 だけど、変わらずに涼やかで、優しい。 顔を見たくて、身じろぎすると、ハクは腕の力を抜いた。 千尋は、顔を上げて、ハクを見る。 ハクも、千尋を見つめる。 以前より、ハクは男の人らしくなった、と思う。 見つめられて、ドキドキして、千尋は言葉を紡げない。 「大人っぽくなったね、千尋」 沈黙を破ったのは、ハク。そう言って、微笑んだ。 言われて、千尋は、はっと自分の姿を見る。 紺のスクール水着の上に、オレンジ色のライフジャケット。 髪はボサボサ。 髪と言えば・・・。 「あっ!髪留めっ!どうしようっ!流されちゃった・・・」 ハクには会えたけれど、あの髪留めは、やっぱり大切な物だ。 溺れてしまって、手が届かなかった。掴めなかった。 しょんぼり、肩を落とす千尋に、ハクは、すっと手を伸ばした。 「はい、これ。大切にしてくれていたんだね」 手を広げると、そこには、紫色の髪留め。 安堵のため、千尋の目から、ポタポタ、大粒の涙がこぼれる。 「ありがとう、ハク。また、ハクに助けられたね」 「無事で良かった。その髪留めが、千尋の危機を教えてくれたんだよ」 ハクは、千尋と目線を合わせるために、少し屈んで言った。 千尋は、ハクの手から髪留めを受け取ると、再びポニーテールを作った。 髪が濡れていて、やりにくかったけれど、どうしても早く身に付けたかったから。 涙で頬を濡らしたまま、千尋は笑顔を作った。 「やだ・・・次に会う時は、絶対オシャレしようと思ってたのに。こんな格好で・・・」 自分が、思い描いていた再会とは、全然違う。 もっと、綺麗な自分を見せるつもりだったのに。 よりによって、こんな格好だななんて。 本音を言うと悔しいけれど、会えた喜びのほうが今は大きいから。 でも、やっぱり、女の子としては、久しぶりに会えた大切な人の反応が気になるから。 笑ってごまかそうとする。 千尋は、ハクも笑うかと思っていた。 一緒に笑ってくれると思った。 けれど、ハクは。 眩しそうに目を細めて、言った。 「千尋は・・・いつも、そのままで、そこにいるだけで可愛いよ」 ちょっとだけ、照れくさそうに。 でも、はっきりと、そう言った。 千尋は、突然のことに、一瞬ぽかんと口を開けて・・・その後すぐに真っ赤になる。 そ、そんなこと、真顔で言うなんて、不意打ちだよぉ〜〜。ズルイ〜〜。 ずっと再会を夢見てきた人に会えて、それだけでも嬉しいのに。 か、可愛いなんてっ!! 嬉しくて嬉しくて、理性が吹っ飛びそうだ。 心臓がドキドキしているのが、自分でもわかる。 ハクにも、聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいに、ドキドキしている。 考えたくなくて、否定してきたけど。 それだけじゃないと、今でも思ってるけど。 やっぱり。 ハクのこと。 好き・・・みたい。 ひゃっと赤くなった千尋を、愛しそうに見つめていたハクが、口を開いた。 「千尋、会えて嬉しかった。けれど、もう帰らねば」 |
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