碧の約束5





 約束の証。

 指輪を貰って、その後は・・・。

 キ、キス???

 千尋の頭にあるのは、もちろん、結婚式。

 け、けけけけ結婚って・・・!

 ハクを見て、頬を染める。

「どうしたの?」

 ハクは、次々と変わる千尋の表情が不思議で仕方がない。

「ううん。何でも・・・」

 千尋は、首を振る。

 今度は気付かれないように、そっと、ハクの顔を窺う。

 口。

 整った、綺麗な口。

 わあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 千尋は、自分とハクのキスシーンを想像して、一人勝手にドキドキする。

 ・・・には出来ないな。

 こっそり、ため息をつく。

 ちょっとためらうけど。

 よしっ!

 千尋は、気合を入れた。

 そして、素早くハクに近づいて。

 彼の頬をかすめるようなキスをした。

「・・・私からの、証」

 その瞬間。

 ハクの時が、止まった。

 何が起こったのか、わからないとでも言うように、呆然としている。

「ハク、口開いてるよ」

 赤くなりながら、千尋が言う。

 その一言で、ハクは、はっと我に返り・・・耳まで真っ赤になった。

 予想以上の反応に、千尋の方も気恥ずかしくなる。

 それから。

 あまりにも、ハクがビックリしているのが、おかしくて、笑った。

「何も、笑わなくとも・・・」

「ご、ごめん。だけど、いっつも澄ましてるハクが、そんな顔するから」

 謝りながら、千尋はまだ笑いつづける。

 一応、我慢しようとしているのだけれど、つい、笑ってしまうのだ。

 千尋にまで、澄ましていると言われたのは、心外なハク。

 まぁ、確かに。

 油屋営業仕様のハクは、冷気をまとった無表情帳簿係だけれど。

 千尋と二人の時まで、澄ましてる?

 ハクは、どうにも納得できず、首を傾げる。

 でも、千尋が楽しそうだから。

 二人で、笑う。

 このまま時が止まってしまえば良い。

 そう思うくらいに、二人にとって久しぶりに楽しい時だった。





「さぁ、もう戻らなくては」

 ひとしきり笑って、ハクは言った。

「うん」

 返事をする千尋は、やはり、どこか元気がない。

 ハクは、頭の中で、ある計画を立てて、千尋の名を呼んだ。

「千尋」

「ん?」

 ハクを見上げた千尋の唇に。

 自分の唇を重ねた。

「なっ!///////////」

 千尋は、真っ赤になって、口もとを空いている方の手で隠す。

「さっきの、お返し」

 涼しい顔で、ハク。

「もうっ!」

 まさか、反撃があるとは思わなかった。

 でも、これは、責めているのではなくて、嬉しくて。

 こんな時間を共に過ごせるのが嬉しくて。

 ハクの気持ちも嬉しくて。

 ファ、ファーストキスだったりして・・・。

 ずっと、こうしていられたら良い。

 また、こうして会えたら良い。

 離れていても、絶対に忘れない。

 距離や、空間なんて関係ないと思えるくらい。

 人間と竜であることも障害にならないくらい。

 お互いのことを想っているのだから。

 きっと、大丈夫だ。

「じゃぁ、またね」

「また・・・」

「ハク・・・」

「何?」

「私、ハクのこと、待ってるから。信じて、待ってるから」

 千尋は、つないだ手に力を込めて、真直ぐにハクに伝える。

 千尋の真剣な様子に。

 ハクは、目を見開いて・・・すぐに微笑んだ。

「ありがとう」

 ホッと、息をつく千尋。

「さ、もうお行き」

 再び離れる手。

 大切なものを手離す瞬間。

 千尋の手は、小刻みに震えた。

 離したくなかったけれど。

 約束したから。

 信じて待つと、約束した。

 だから。

 震える手をぎゅっと握り締めて、千尋はハクに背を向けた。

 けれど今度は。

 千尋は、一度だけ振り返った。








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