橋の先の木戸が、半開きになっている。近くに、ハクの草履が片方転がっている。
木戸の前に、ハクはうつぶせの状態で倒れていた。
白い水干の地面に接している側が、泥で茶色く染まっている。
雨は、彼に対しても勢いを弱めることなく襲い掛かっている。
しかしハクは、ずぶ濡れのままピクリとも動かない。
その様は、打ち捨てられた人形のようにも見えた。
リンは、ハクの側にしゃがむと彼の頬を三度叩いた。が、まったく反応はない。
手をかざすと、息をしている。
リンは、ほっとして肩の力を抜いた。
いつまでも雨の中放っておくわけにもいかない。
ずしりと重みがかかることを予想して、ハクの腕を取った。
けれど実際は、まるで風船で出来た人形を担いでいるみたいに、軽かった。
とても生物とは思えない、不自然な軽さ。
ハクを見つけて、役目の半分(もう半分は、彼を油屋まで連れて帰ること)を終えた気分になっていたリンだったが、このままハクを父役等の所へ運ぶのは、躊躇われた。
尋常でない様子のハクをこのまま彼らの元へ運んだとしても、騒動になるだけなのではないか?
そればかりか、何の対処も出来ずに、このままハクを取り戻すことが出来なくなるかもしれない。
それでは、ハクに対しても、また釜爺曰くハクと愛しあっているらしい千に対しても、顔向けできない。
オレがなんとかしてやるかっ!
リンは、口をきゅっと結び、鼻から一気に空気を出した。
肩を組むようにして、半ば引きずるように連れ帰ろうと思っていたリンだったが、やる気と行動が比例して、ハクを背に乗せる。
橋を湯屋の方へ渡る。
苦労して潜り戸を入り、外階段へ抜ける。
「ひぃぃぃ〜〜!怖えぇぇぇぇ〜〜!!」
リンは、ハクを背負ったまま立ち尽くした。
下方から、音を立てて、風が襲いくる。
眼下には、そのまま地の果てへと続くのではないかと思うほどの、急な階段。登る時よりも、下る時の方が怖いものだ。
普段はこんな階段、何ともないのだ。
しかし、今日はハクを背負っている。バランスを取り辛い。
その上、この嵐である。こうしている間にも、足元を水が流れていく。先程よりも勢いを増したようだった。階段がよく見えない。
踏み外したら・・・。
ゴクリ、と唾を飲み込む。
雨に濡れたことによる寒さと恐怖のため、身体が震える。
手足の末端が、冷えて麻痺している。
リンは穿いていた草履を脱ぎ捨てた。
何度か足踏みをすることで、少しずつ、つま先に感覚が戻ってくる。
「よし・・・!」
ハクを背負いなおし、足全体に力を入れて、リンはいざ一歩・・・。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
「なんだ、リン。びしょ濡れじゃねぇか。外は雨か」
息も絶え絶え、リンはボイラー室へと戻ってきた。
暖かさと明るさに、不覚にも涙が出そうなくらい気が緩む。
坊ネズミは、ススワタリたちと戯れており、リンには背中を向けている。
最初、釜爺の位置からは、ハクの姿は見えなかった。
リンが近づいて、はっきりと確認できる距離まで来たところで。
釜爺は、息を飲んだ。
「!・・・こりゃぁ・・・何があったんだ?」
「外に倒れてた。変に軽いんだ。まだ生きてはいるみたいだけど・・・」
リンは、ハクを下ろすと、ようやく一息ついた。
「そうとう、弱っとるなぁ。どこで拾った?」
「橋のとこ。助かりそう?」
「ん?んん〜〜」
釜爺の手が、ひゅっとリンの脇を抜け、いくつかの引出しから薬草を取り出した。
そのまま、リンに背を向けて薬草を煎じる。
リンは、雨に濡れた着物を脱いで火に翳しながら、釜爺の仕事が終わるのを待つ。
国防色の液体をハクに飲ませて、釜爺は額の汗を拭いた。
「これで、少しは落ち着くと良いんだが・・・」
リンにおんぶされるハク・・・(笑)
ハクが知ったら、嫌がりそうです。
いつの間に、こんなことになったんだろう?
決して悪意はありません〜。
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