シロイ・4

 湯屋での変化と言えば、皆の成長や老いくらい。
 それは千尋のいる世界とは異なる速度での変化。
 しかし、ゆっくりとではあるが、着実に時は流れる。
 リンは、ハクを見る。
 自分は変わった。背が伸びた。髪も伸びた。肉もつき、女らしい体型になりつつある。
 しかしハクは。

 リンが初めて見た時から、少しも変わらない。
 いつまでも、少年の姿のまま・・・。



 ハクは一体、何者なのか?
 彼は・・・。
 リンや他の従業員とは違う。
 湯婆婆や坊とも違う。
 湯屋の客である神々とも・・・何か違う。
 もちろん、千とも違う。

 では。
 何者なのか?
 何のために、ここにいるのか?

 ハクは、湯婆婆の弟子だった。
 では、魔法を教わるために油屋に?
 それにしても、なぜ魔法を身につけたかったのか。

 リンは、生きていくため、働かざるを得なかった。
 その点は、千と同じである。
 ここでは、働かないものは存在することが出来ない。

 ハクだって、働かなければ、豚にされてしまうだろう。それは、他の者と同じはず。
 弟子として修行するだけではなく、油屋で働いているのは、せいぜい湯婆婆に命令されたとか、生きるため、だろう。
 それは、判る。理解も出来る。

 しかし、考えても、ハクの正体はわからないのだ。
 判らないからこそ、気持ちが悪い。恐ろしい。
 自分が恐れていることを認めたくなくて、それを排除しようとするのだろう。
 愚かしいけれど。

 父役、兄役、青蛙・・・彼らが恐れているのは、ハクの強さだ。彼らはハクの力を恐れているに過ぎない。
 リンが恐ろしいのは。

 ハクそのものだ。

 ハクと言う存在が。
 得体の知れないものが。

 解らぬから恐ろしい。
 知るのも恐ろしい。
 触れてはいけないもののような気がして。

 ハクは・・・そしてリンは、油屋から出て行くことができるのだろうか・・・。 



「あんたが、無駄話するなんて、珍しいじゃん」
 リンは、ぶっきらぼうに言った。

 丁度エレベーターが止まって、ハクとリンは乗り換えるために少し歩いた。
 その間、ハクは無言。
 リンは、思いっきり息を吸い込んで、全てため息として吐き出してしまいたいような・・・損な気分になったけれど、口をへの字に曲げる程度で我慢する。

 ハクが重い口を開いたのは、再びエレベーターに乗ってからだった。
『成長しているように見えた』とは、何を意味するのか。

「千尋は、それを望んでいる、ということだ。私が千尋と同じ歳月を重ね、同じように成長していることを期待して・・・信じている」

 ハクは、ゆっくりと話した。
 千尋に会えて、嬉しかった。
 同時に、千尋の考えが、千尋がハクをどのように見ているのかが、解ってしまった。
 真実を知ったら、千尋の気持ちはハクから離れていくのだろうか。
 そんな事は無いと思いたい。ただ、彼女は知らないだけで。
 それでも、二人が共にいた時間はとても短くて。会えない時間の方が圧倒的に長くて。その間に千尋が変わらない、とは言い切れないのだ。

 ハクには、無心に信じることは出来ない。

 千尋とは、違う。



「千が、そんなこと気にするなんて、思ってんの?」
 リンは、ハクを異物としてとらえていた。
 しかし。
 千には、そういった感情はないようだった。
 少なくとも、リンが見た限り。

 自分もこの世界の中で異物だったからなのかどうかは解らない。
 けれど。
 ハクに対しては、絶対に。
 千はハクを信頼していた。

 ハクは、面を上げ、
「リンに言われるとは、思ってなかった」
と、弱々しく笑った。
 それでも、少しは気持ちが晴れたようだった。
 顔色も、青くはない。

「あんたの弱った顔なんて見たくもないね。無表情か、ふてぶてしく笑ってる方がよっぽど良いんじゃないの?」
 居心地が悪くて、リンはそう言った。

「だいたいさぁ、こんなになってまで助けたら、かえって千が・・・」
「私が、助けたかったのだ」
「は?」
「私が。そうしたかったのだ。だから助けた」

 リンが再び口を開こうとした時、エレベーターが止まった。




戻る 前へ ◆ 次へ




広告 [PR]冷え対策  再就職支援 わけあり商品 無料 チャットレディ ブログ blog