毎年10月は、湯屋は暇である。
というのも、神々は出雲に集まっているから。
まさに神無月。
閑古鳥の鳴く10月の油屋では、日頃より念入りな掃除やら、従業員教育やら、そしてイベントなどが行なわれる。
その中でも従業員の期待のかかるビッグイベントは。
『油屋杯争奪秋の大運動会』
今年も、秋晴れのある日、盛大に開催された。
まずは進行役の蛙の挨拶から。
「今年で6度目を迎えました、『油屋杯争奪秋の大運動会』!!出雲での会議に疲れた神様達をお迎えする前に、我々も大いに楽しもうではありませんか!栄えある湯婆婆賞の商品は!!なんと『有給休暇3日間!』だぁ〜〜!!さて、一体誰がこの栄誉を獲得するのかっ!?それでは・・・湯婆婆様より開催のお言葉を頂きたいと思います。では、湯婆婆様、お願いします」
「え〜。オッホン!11月の稼ぎ時を前に、毎年恒例となった運動会を無事迎えることが出来、大変結構!走るなり、飛ぶなり、踊るなり、歌うなり、とにかく全力でやるんだよっ!では、開始っ!!」
話が短い。
こういう所は良い上司。
「ありがとうございました。それでは、準備体操をしますので、各自適当に広がってください」
一番最初の競技は徒競走。
「早い早い早いっ!これぞまさに目にも止まらぬ速さというやつでしょうかぁ〜!と言っている間に、ハク様ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!誰も相手になりません!!他の選手は・・・2番の選手が第2コーナーへ差し掛かったところですね!ハク様の速さが窺い知れます!!」
小湯女たちが、ハクを遠巻きに見て、キャーキャーと、黄色い声をあげている。その中の勇敢な者がハクへ手ぬぐいを差し出したが、ハクは見向きもしない。汗もかいていないので、手ぬぐいが必要でもない。
がっくりと肩を落とす小湯女だが、「ほらっ!さっさと並べよ〜!」とい言うリンの声に、その場を去った。
運動会の合間の儚く散った淡い恋の話。
ハクは全力で走った。
大人気ないくらい(見かけは子供ですが)全力で走った。
もちろんそれは湯婆婆賞獲得のため!である。
なんとしても休み(しかも有給休暇だっ!)をゲットして、千尋に会いに行かねばならない!
他人に見られないように、ひそかにこぶしを握り締めるハク。
「湯婆婆様の愛息子、坊様っ!ようやくゴーール!よく走りぬきました!ご立派でございますっ!皆様、暖かい拍手を〜〜」
現在出番のない蛙、ゲエとゲの会話。
「おい、誰だよ、組み合わせきめたのは?」
「さぁ?」
「ハク様と坊を一緒の組にするなんてナ〜。」
「そういえば、他のやつらも、鈍足なヤツばかりだぞ」
「ハク様だけか・・・」
「ハク様だけだ」
「・・・」
「・・・」
「ま、誰と走ってもハク様には適わんだろうがな」
「そうだな」
「そうさ」
「で、誰が決めたんだろうな?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まぁ、良いか」
「良いさ」
「長いものには巻かれろって言うもんな」
「ハク様には、巻かれた方が身のためだ」
「!!おまえっ!!」
「あっ!!」
「・・・・・・」
「聞いてなかったかな?」
「多分な。休暇のことで頭はいっぱいだろう」
「誰が商品決めたんだろうな」
「・・・それも同じだろ」
「マァマァ、良く頑張ったわねぇ〜〜」
走り終えた坊を迎える湯婆婆の声は、いつもの通り1オクターブ高い。
「バーバ」
「おまえが一番頑張ってたよ。おまえを優勝にしようかねぇ」
「ダメだぞ。坊は一番遅かったんだぞ。それじゃぁ、かけっこにならないんだぞ」
滝のように流れる汗を湯婆婆に拭いてもらいながら、坊は憮然として言った。
「そ、そうだね・・・。まだまだ活躍できる競技もあるんだからね、頑張るんだよ、坊」
「坊は頑張ってるんだぞ」
頑張っても頑張っても・・・敵わないから、足元にも及ばずライバルにもなれないから、悔しいのだ。
そこで泣き出さずに、最後までやり遂げるようになったことは、明らかに坊の進歩である。
彼だって、成長しているのだ。
ちょっぴり痩せたし。
いつまでも、負けっぱなしではない。と、思いたい・・・。
いつかはハクに追いつき、追い越すんだと思いながら、今日はまだ負けておいてやるのだ。
「次の競技は、幅跳びですっ!蛙の皆さん、大いに張り切って飛んでください!日ごろ運動不足と思われる上役の記録に注目ですっ!」
皆跳んだ。跳んだ。
中には、かなり良い記録も出た。
予想通り、上役の記録は悪かった。
しかし。
ハクは、飛んだ。
勝てるわけがない・・・・・・。
障害物競走でも。
ハクは、目の前の障害を、魔法で難なくこなし、堂々の一位。
皆で輪になって踊る時にも。
ハクは、懐から扇子を取り出し、ひときわ優雅に舞った(勘違いだとは誰も言えず)。
騎馬戦では。
ハク様の御髪を乱す勇気のある者がおらず、一人勝ち。
再びゲエとゲの会話。
「ま、ハク様に勝とうなんて、思わないほうが良いわな」
「そうだな」
そんなこんなで終わってみれば圧倒的ハクの勝利!!
誰も寄せ付けず、易々と優勝を決めたのでありました。
「優勝者は、ハク様でーーーす!皆様、盛大な拍手を!!」
「ちっ」
「ちっ!」
舌打ちしたのは、誰だったのか?
しぶしぶハクに『優勝商品 湯婆婆賞・有給休暇3日間』と書かれたボードを手渡す湯婆婆。
晴れやかな顔で、受け取るハク。
「魔法を使って勝つなんて、見下げた根性だねぇ」
「湯婆婆様、貴女がそれをおっしゃいますか?」
「フンッ」
「魔法禁止だと言われた覚えはありませんよ。それに、足が速いのも飛べるのも、私の身体能力です」
「フンッ!可愛くないね」
「ありがとうございます。・・・えぇ、湯婆婆様の元弟子ですから」
ハクは悠然と微笑んだ。
腹の中の虫が出てからは、湯婆婆に対しても強気である。
「まったく、可愛げのカケラもありゃしないよ!帰ったら、千の様子を報告するんだよ!」
「休暇中のことまでですか?」
ハクは形の良い眉を寄せた。
「・・・・・・一体何するつもりだい?」
(千尋っ!もうすぐ、そなたに会いに行くよ!!)
ハク様の意識だけが、すでに遠くへ飛んでいた。
主役は、蛙か?(笑)
お遊びですから、皆様寛大に・・・(苦笑)
もちろん、上の続き物とは設定も何もかも違うお話です。
次は、休暇を利用したハクと千尋のデート編ですかね?(爆)
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