去る11月某日。
千尋は貰ったばかりのお小遣いで毛糸を買った。
深い深い緑色の……。
「あ〜! もうダメっ!! 出来ないっ」
千尋は、机にヨレヨレの物体を放り投げ、その上に突っ伏した。
ヨレヨレの……セーター……でもなくて、マフラー……とも呼べない緑色の毛糸のカタマリ。
千尋の親友、菜子は呆れたように千尋を見た。
実際呆れている。
「ちょっとぉ。そんなんで間に合うの?」
千尋がヨレヨレにしてしまった毛糸を綺麗に巻き取りながら、菜子は言った。
「だから、ダメだって言ってるじゃない〜〜」
「クリスマスも、そう言って流しちゃったよね」
何気ない一言が胸に刺さる。
でも、多分わざとだ……。
千尋は、恨めしそうに菜子を見上げたが、菜子はそ知らぬ振り。
私の周りって、こんな人ばっかり……。
千尋は、軽くため息をついた。
だけど。
こういうタイプは嫌いじゃないのだ。
「菜子は何かあげないの?」
視線だけ上げて、千尋は言った。
菜子は何の感慨もなさそうに
「あげるよ」
と即答。
予想外の答えに千尋は身を乗り出す。
「えっ!? 何!? 何あげるの? 菜子もプレゼント手作りしてるの!?」
菜子は、ひらひらと手を振った。
「違う。手作りなんて、そんなのあげないよ」
「え〜〜」
いかにも残念そうな声を出しながら、千尋は体を椅子に収めなおした。
編物を千尋に教えてくれたのは菜子だった。
不器用な千尋でさえ、想いを込めて手作りのプレゼントを用意しているのに、菜子が作らないのは釈然としない。
そんな気持ちが通じたのか、菜子は毛糸を巻き取る手は休めず言った。
「そんなもの貰っても、重いでしょ?私は欲しくないなぁ……気持ち悪くって」
「……ヒッド〜〜〜〜〜イ」
いくらなんでも、気持ち悪いはあんまりだ。千尋は目を細め、わざと冷たい視線を菜子に送った。
「千尋のことじゃないけどね。私が嫌なんだ〜。あげるなら、美味しいもの、素敵なものが良いと思わない?」
「そりゃ・・・美味しい方が良いけど、でもでもっ! 気持ちがこもってるもんっ!!」
「うん。だから、千尋はそれで良いよ。私には、その気持ちが重いんだよね〜。手編みのセーターとか、マフラーとか、夜なべして作ったお菓子だとか・・・」
「う〜〜〜ん」
「それにさ、着て歩くのも恥ずかしいでしょ?」
千尋は、これまでの努力の集大成を広げた。
目が詰まっていたり、スカスカだったり。増えたり減ったり・・・。
確かに・・・いくら愛が詰まってても、これを着て外に出られては、こっちも恥ずかしい。
「やっぱり無理だったのかなぁ〜」
「作るのが?それは、初心者だから下手でも仕方ないんじゃない?」
「でも、もう3ヶ月も経つんだよ?」
「努力が足りないか、才能ないかでしょ?もう止めるんだったら反対しないよ」
「やっ・・・止めない!やるっ!!だから見捨てないで教えてくださいっ、菜子様〜」
「・・・なんだ。止めないんだ」
「うん。なんとかムチウチギブスは脱したみたいだね」
2月に入って、最初の月曜日。
千尋の週末の成果をチェックした菜子が笑顔になった。
「ホント!? 良かったぁぁ〜〜」
千尋も胸を撫で下ろす。
自分でも、随分見られるようになってきたと思っているのだ。
先週末、同じように見せた時には、
「ギブス。さもなきゃ防弾マフラーだね」
と言われた千尋は、その後(菜子のアドバイスのもと)"ふんわりマフラー"を目標にひたすら編みつづけた。
おかげで、ペンも持てないほど手が痛い。
「うん。上出来上出来!もちろん? まだ粗はあるけど、この程度なら誤魔化しちゃえば平気」
「やった〜〜! もうダメかと思ったよ・・・なんとか間に合いそうだねvv」
千尋の、飛び上がらんばかりの喜び様を、苦笑し見ていた菜子は、すぐに真顔になって、
「気を抜くと、またギブスになっちゃうんじゃない?」
と言った。
「ちゃんと気をつけますっ! ハク喜んでくれるかなぁ・・・」
ぎゅうぅ〜と編みかけのマフラーを握り締めて、ハクの面影を思い浮かべる。
花のような笑顔のハク。
仕事中のクールなハク。
……かぁっこ良いなぁ〜〜。
「そこ、遠い目しない! 現実に戻ってきなさい」
「ねぇぇぇ、菜子。この色ホントにハクに似合うと思う?」
「そんなこと知らないって! 会ったこともないんだから」
「どうしよ〜〜。心配になってきちゃった」
「無駄な心配は、出来上がってからした方が良いんじゃないの?」
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